gift

「あれ、うまい」

「ね? 全然邪道じゃないよ! 普通のつけうどんよりおいしいって」

湊くんのつけうどんを一口食べてみたけれど、私は断然担々つけうどんが好き。
悔しそうな顔を満足気に眺めて、ふと思う。

「湊くん、なんか痩せた?」

採寸しているわけではないから確かなことは言えないけれど、人としてのラインがほっそりしたような気がする。

「最近体重計乗ってないからわからない」

「前回会った時も思ったけど、顔色もあんまりよくない気がする」

うどんの大盛に加えておにぎりも追加しているから、食欲はあるようだ。

「家でもちゃんと食べてるの?」

「食べてるよ。オンリー碗で」

ラー油が鼻に入った!!

「まだ持ってるの? 捨ててよ!」

「もらったものをどうしようと、俺の勝手でしょ」

「今井家の恥……」

「恥じゃない。誇れ」

あっという間に食べ終わった湊くんは、それでも私がたらたら食べる間ずっと待っていてくれる。
本当は早く帰りたいのかもしれないけど、私はいつも時間ギリギリまでかけてゆっくり食べていた。
湊くんと会えるのは、この時間だけだから。

「昼休み終わったら置いて帰るよ?」

「やだやだ! 待って! すぐ食べる!」

社会人だから、どんなに粘っても限界がある。
人生ずーっと昼休みにならないものかと祈っているのに、叶う気配はない。

研修や会議で湊くんが本社に来ることもたまにあるので、その機会を逃さず捕まえて、二~三ヶ月に一度は湊くんとお昼ご飯を食べた。

ちなみに湊くんの出張情報は、事業所にいる同期の田淵さんから仕入れていた。

「田淵さん、いつもありがとう!」

お礼に上野駅限定パンダサンド(黒いビスケットに白いクリームが挟まったもの。……あれ? すごく似たやつスーパーでも売ってるな)を、袖の下としてそっと差し入れた。

「いやいや、課が違うから情報遅くて申し訳ない」

片手で謝罪しつつ田淵さんは早速オレ……違った「パンダサンド」をひと口で食べた。

「そんなことない! これからもよろしく!」
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