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湊くんに会える日を指折り数えて、居酒屋の日本酒を制覇したり、長編歴史マンガを読破したり、「あれ? この芳香剤、もしかして切れてる?」なんてことに気を取られていたら、ゆるゆると一年が過ぎていた。
その間に変わったことと言えば、美里さんが無事女の子を出産したことと、そのせいで岩本さんがデレッデレで鬱陶しいこと。
あとは夏歩ちゃんが折れたことだ。
課長としてはすぐにでも結婚したいらしく、毎日のようにプロポーズをくり返しているようだけど、夏歩ちゃんは「今朝パンが焦げたから縁起が悪い」「今日は向かい風だったから気が乗らない」などという理由で、のらりくらりとかわしている。
「夏歩ちゃんは結婚したくないの?」
結婚相手を探しに入社したはずなのに、夢目前で足踏みするなんて夏歩ちゃんらしくない。
「そんなこともないんですけど、やっぱり遺伝問題は深刻というか」
キスをするのは正面だけ、と思っていた私は、夏歩ちゃんに言わせると甘いらしい。
「気持ちが高まって頭を引き寄せたりすると、指先に地肌が当たるんです。一瞬トーンダウンしますから!」
とのことだった。
確かに湊くんとキスをしたとき、サラサラの髪の毛が指を滑るのはすごく気持ちよかった、と一度きりの思い出を、スルメを噛む要領でしつこく思い出す。
私にはわからないけれど、夏歩ちゃんに言わせると、課長のアレは着実に進行しているらしい。
「でもだいぶゆっくり進んでるから、孫の代までにはかなり有力な対抗策が開発されてるよ、きっと」
他人事なのでいつも以上に楽観的な私の言葉に、惑わされる夏歩ちゃんではない。
「そんな楽観視できません。息子に遺伝しないとも限らないんですよ。そうしたら、そもそも孫の顔は見られないかもしれません!」
「ハゲでも愛してくれる人は現れるよ。実際夏歩ちゃんは、なんだかんだ言っても課長と付き合ってるじゃない」
不満そうに口をとがらせながらも、その頬はピンク色だ。
ハゲさえ気にしなければ、課長に愛される女の子は幸せに違いないのだ。
「あやめさんは、湊さんが将来ハゲても愛せますか?」
「今すぐまだらにハゲても愛せるね!」
あのサラサラがなくなってしまうのはもったいないけれど、いっそハゲてくれればいいと思う。
そうしたら誰も近寄らなくなって、諦めて私と付き合ってくれるかもしれないもの。
岩本さんにしても課長にしても、結局外見的欠点なんて、恋の前では小さな問題なのだ。