gift

湊くんが転勤したときに思ったはずだった。
むしろ神様はいるって。
神様は座っているイスを突然カマボコに変えるような、本当に思いがけないイタズラを仕掛けてくるものなのだ。
私が湊くんにした数々のイタズラなんて、お遊びにもならないくらいの。
だからあんなこと、予想できるはずがない。

昼休みには少し早いけれど、私は仕事をサボるついでに、コンビニにお昼ご飯とデザートを買いに行っていた。
生チョコクレープにするべきか、スイートポテトタルトにするべきか、五分以上迷っていると、

「あやめって、まだクレープなんだな」

背後から聞き覚えのある声がした。
振り返ると、あの喫煙ルーム以来の拓真がいて、隣に並んでシュークリームに手を伸ばす。

「拓真だって、まだシュークリームじゃない」

「かなり久しぶりだよ。二週間くらい食べてない」

「私なんて半年は食べてないよ。趣味趣向って変わらないね」

吐き気がするほどいやだった感情も、湊くんのおかげですっかり過去のことと割り切れていた。
が、そう思った矢先、拓真は思いの外未練を示してきた。

「変わらないなら、もう一回付き合う? 今度はちゃんと結婚も考えるから」

一年の間に、拓真の心境にもいろいろと変化はあったのだろう。
結婚する気がなかった彼が、どういう経緯でそう思ったのかは知らないし、どうでもいい。

「付き合わない。私別に結婚焦ってないし。何より好きな人がいるからね」

スイートポテトタルトに決めて、手に持っていたクレープを棚に戻す。
間髪入れずに断ったのに、拓真はそれを予想していたようで、特別傷ついた風でもなかった。
< 48 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop