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「そうらしいな。事業所の契約社員の男を追いかけてるって聞いた」
「わー、すごい。人の噂は侮れないね。大正解」
「あやめってそんなタイプだっけ? 俺のときだってすぐ切り替えたくせに」
イミテーションだと思っていたけど、それでも私と拓真の間には、普通以上に積み上げた時間が確かにあったのだ。
私がこの人の性格を知っているように、この人も私のことをそれなりに知っていた。
「そうなんだよね。それ、私も不思議に思ってる」
中学生でもあるまいし、一年もの間応えてもらえない相手を追いかけるなんて。
夏歩ちゃんにも、「いい加減決着つければいいのに」と呆れられている。
だけど私は気にしていなかった。
本当に結婚は焦っていないし、もし湊くんより好きな人ができたら、あんな人はすぐに捨ててやろうと思っている。
そんな人がたまたま現れていないだけだ。
湊くんは私を拒否しない。
でもこれ以上踏み込もうとすると、やんわりだけど距離を取る。
もし答えを迫ったなら、きっときっぱり振られるだろう。
だからまだ結論を急ぐつもりはない。
「その男、さっき社内で見かけたよ」
「え!」
思いがけない言葉に、場所をわきまえずに大きな声が出た。
「事務課の方に歩いて行った。会いに来たのかもしれないから、早く帰れば?」
タイミングよく携帯がメッセージの着信を知らせる。夏歩ちゃんだった。
『課に湊さんが来てます!』
文字を見るなりドキッとしてバランスを崩し、後ろを通った人にぶつかる。
「わー! すみません! あ、痛っ!」
相手から離れた反動で、今度は棚にぶつかってしまった。
「何やってんだよ」
げんなりした拓真の声も耳に入らない。
慌ててコンビニを出ようとして万引きを指摘され、持っていたスイートポテトタルトを拓真に押しつける。
そしてまたドアにぶつかりながら飛び出した。