gift
お昼なんて食べる気持ちはなくなってしまって、八つ当たりする気で全体重をイスにぶつける。
そこに狭い課内を、夏歩ちゃんが全力で走ってきた。
「あやめさん、湊さんには会えました?」
「うん。そこの廊下で捕まえた。逃がしちゃったけど」
「よかったー。あやめさんいない時に挨拶に来たから、避けてるのかと思っちゃいました」
「挨拶?」
怪訝な顔をする私を見て、夏歩ちゃんが色を失う。
「湊さん、何も言ってなかったんですか?」
「今日はもう帰るって言ってた」
「追いかけてください!早く!」
夏歩ちゃんに腕を取られて無理矢理立たされ、入り口の方に押される。
「え? え? なんで?」
「湊さん、辞めちゃうんですよ! 人事課の帰りに、退職の挨拶に来てたんです!」
それを聞いて、夏歩ちゃんを振り払う勢いで走った。
ついさっき湊くんが降りて行ったばかりの階段を駆け降りて、お昼を食べに出る人を避けながらエントランスを出る。
通りを眺めてもすでに湊くんの背中は見えなくて、とりあえず駅の方向に走った。
運動不足の私の足は気持ちに関係なく動かなくなって、何もないところでつまずき靴が脱げた。
一度止まると膝がガクガクして走れない。
それでも急ぎ足に切り替えて、這うような気持ちで駅に向かった。
呼吸が苦しくて、喉が痛くなって、心臓がバクバクして、でもそれは走ったせいだけではない。
そんなに大きくもない駅構内で、湊くんの姿は見あたらなかった。
そもそも駅には向かわなかったのかもしれない。
思い出して携帯に連絡した。
プルルルルル、プルルルルル、……
どれだけ待っても出ない。
何回かけても出ない。
それは、きっと湊くんの意志だ。
十二月の駅前は、しばらく前からクリスマスに向けて浮かれていて、その楽しげなメロディーが空っぽの身体を空しく通過して行った。
汗は一瞬で冷えて、コートも着ていない私は寒さに震えたけれど、どうしてもその場を動けなくて、とうとう昼休みの時間内には戻れなかった。
遅刻を謝罪してデスクに戻ると、田淵さんからメールが届いていた。
『ごめん! 最近忙しくて情報掴むの遅れたんだけど、湊くん退職してたみたい。有給消化のために昨日から休んでるらしいよ』
『本人に会ったよ。忙しいのにわざわざありがとう。今度ランチに行こうね!』
メールは便利だ。
なんの感情もなくても、それっぽい返事だけはできるから。
社会人だから仕事はしなければいけない。
慣れてもいるから、手を動かせば一応進めることはできる。
夏歩ちゃんの心配そうな視線は感じていたけれど、笑顔を返してあげる余裕すらなく、黙々と仕事をこなしつづけた。
そこに狭い課内を、夏歩ちゃんが全力で走ってきた。
「あやめさん、湊さんには会えました?」
「うん。そこの廊下で捕まえた。逃がしちゃったけど」
「よかったー。あやめさんいない時に挨拶に来たから、避けてるのかと思っちゃいました」
「挨拶?」
怪訝な顔をする私を見て、夏歩ちゃんが色を失う。
「湊さん、何も言ってなかったんですか?」
「今日はもう帰るって言ってた」
「追いかけてください!早く!」
夏歩ちゃんに腕を取られて無理矢理立たされ、入り口の方に押される。
「え? え? なんで?」
「湊さん、辞めちゃうんですよ! 人事課の帰りに、退職の挨拶に来てたんです!」
それを聞いて、夏歩ちゃんを振り払う勢いで走った。
ついさっき湊くんが降りて行ったばかりの階段を駆け降りて、お昼を食べに出る人を避けながらエントランスを出る。
通りを眺めてもすでに湊くんの背中は見えなくて、とりあえず駅の方向に走った。
運動不足の私の足は気持ちに関係なく動かなくなって、何もないところでつまずき靴が脱げた。
一度止まると膝がガクガクして走れない。
それでも急ぎ足に切り替えて、這うような気持ちで駅に向かった。
呼吸が苦しくて、喉が痛くなって、心臓がバクバクして、でもそれは走ったせいだけではない。
そんなに大きくもない駅構内で、湊くんの姿は見あたらなかった。
そもそも駅には向かわなかったのかもしれない。
思い出して携帯に連絡した。
プルルルルル、プルルルルル、……
どれだけ待っても出ない。
何回かけても出ない。
それは、きっと湊くんの意志だ。
十二月の駅前は、しばらく前からクリスマスに向けて浮かれていて、その楽しげなメロディーが空っぽの身体を空しく通過して行った。
汗は一瞬で冷えて、コートも着ていない私は寒さに震えたけれど、どうしてもその場を動けなくて、とうとう昼休みの時間内には戻れなかった。
遅刻を謝罪してデスクに戻ると、田淵さんからメールが届いていた。
『ごめん! 最近忙しくて情報掴むの遅れたんだけど、湊くん退職してたみたい。有給消化のために昨日から休んでるらしいよ』
『本人に会ったよ。忙しいのにわざわざありがとう。今度ランチに行こうね!』
メールは便利だ。
なんの感情もなくても、それっぽい返事だけはできるから。
社会人だから仕事はしなければいけない。
慣れてもいるから、手を動かせば一応進めることはできる。
夏歩ちゃんの心配そうな視線は感じていたけれど、笑顔を返してあげる余裕すらなく、黙々と仕事をこなしつづけた。