gift
『前略。今井あやめ様。
手紙を書くなんて初めてなので、多分たくさん間違ってると思うのですが、今回はどうか見逃してください。』

少しズルして定時より十分早く会社を出て、家までなんて待てないから、駅の中にあるカフェに入った。
飲み物を選ぶ気持ちの余裕もなくて、適当に七月の季節限定商品を頼んだら、よりにもよって「夕張メロン豆乳ラッテ」が来てしまう。
口をつけることもせず、手紙の文字を追う。

『君はきっと怒ってると思う。
俺が何も言わないで会社を辞めたから。
本当はあの日、みんなと一緒に君もいると思っていて、その時ちゃんと伝えるつもりだった。

だけど君という人は、どういうタイミングの持ち主なんだろうね。
フライングで昼ご飯買いに行ってるなんて、わかるわけないよ。

本当にちゃんと言うつもりだったんだ。
それなのに、君を見たら言えなくなった。

君には怒っていて欲しいと思う。
怒って元気にわめき散らしていて欲しい。
俺の悪口を並べて、岩本さんから肉を奪って、日本中の日本酒を飲んでいて欲しいと思う。
その方が、泣いているよりずっと君らしい。』

湊くんにとって私はどんな人間に映っているんだろう。
確かに「湊くんがいないなんて、さみしくて死んじゃうよー」と言ったこともあったけれど、実際は毎日元気に過ごしていた。
体調が悪くなることもなく、よく食べよく飲みよく眠れている。
もちろん、自ら命を絶とうなんて思ったこともない。
彼の言った通り、この調子なら世界が滅びても生きられるかもしれない。

でもそれは、ただ生命が繋がっているというだけの話だ。
何をしても楽しくない。
どんな音楽も映画も、何も頭に入らない。
毎日が早く過ぎることだけを願う。
こんなのは、湊くんが思う「私らしい私」ではない。
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