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▲9手 countdown

私が知らないだけで、湊くんが将棋をしていることは、社内で広まりつつあったらしい。
課内に将棋好きがいないので話題になっておらず、岩本さんもつい先日知ったということだった。

「だってこの前新聞に出てたからね。なんかの大会で優勝してなかった?」

「そうらしいですね」

「俺も詳しくは知らないけど、今井さん、まさかずっと知らなかったの? 新聞は?」

「ざっと読んでますけど、将棋の記事なんて読みませんから」

「びっくりしたけど、湊くんの話題は今井さんにはタブーかと思って」

「変な遠慮しないでくださいよ!」

たまにタイトル戦の記事が目に入ることがあっても、目に入っただけで読んではいない。
アマチュア棋戦なんて尚更読まない。

「うちの会社、部活は盛んじゃないからね。だけど、配送センターの時任さんなんか将棋ファンだから、詳しいと思うよ」

「配送センターとあまり接触ないですもん」

アマチュア棋戦は土日に行われることも多いけど、平日に食い込むことも多々ある。
さらにプロの棋戦はほとんどが平日だ。
湊くんが契約社員になってまで休みを欲した理由も、そのためだったのだ。

「湊くん、今何してるんだろうねぇ」

湊くんがアマチュア強豪だと知っていた岩本さんでさえ、プロを志望しているなんて思っていない。
それが当たり前だ。
プロ棋士という職業があることは知っていても、一般的に将棋とは趣味の域を出るものではないから。

「本当に、何してるんでしょうね」

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