gift
キスで忘れていた寒さを感じて、ぎゅっと湊くんにしがみつく。
あの手紙を貰ってから、湊くんの気持ちはわかっていた。
『将棋を選びます』と言われたからって、私への想いが弱いとも思ってなかった。
それでも思う。

「いっそ将棋になりたかった。将棋になれたら湊くんに愛されて、しかも湊くんが欲しがってるgiftを与えてあげられたのに」

湊くんの顔からすっと熱が引いて、盤を前にした時のように真剣な顔になる。
私の背中をしっかり抱いて顔を見つめたまま、それでもどこも見ていない目で考えに沈む。
それからやっぱり真剣なまま、焦点が私に戻ってきた。

「あやめがいなくても生きていけるけど、将棋がない俺は生きてるとは言えない」

「そうなんだろうね。折笠さんは『業』って言ってた」

湊くんは深く頷く。

「ただ、将棋は好ききらい関係なく離れられないものだけど、あやめは好きだから一緒にいたいと思う」

考え考え正直に渡される言葉は、これ以上ないくらい真摯だった。

「それじゃダメかな?」

にやけた顔を手で覆ったから返事ができなかった。
「離れられない」よりも「いたいから一緒にいる」方がうれしい。
「必要」じゃなくて、湊くんの想いで選ばれたい。

将棋にしか与えられないものがあるように、私にしか与えられないものがあるはず。
湊くんの選んだ道がとても狭くて、ひとり分の道幅しかないのなら、私を背負って歩いてもらおう。
きっといつかのように「今井さん、重い……」って言いながらも、離さずにいてくれると思うから。

ごめんね。
重荷になりたくない、なんて身を引くしおらしさは、数世代前からDNAに入っていないの。

「それにあやめはそのままで━━━━━」

聞こえてきた言葉に耳を疑う。
びっくりして顔を見たら、真っ赤な顔を逸らされた。

「ごめん、忘れて」

「忘れない!」

「いや、ダメ。恥ずかし過ぎる。酔っ払いの戯れ言だと思って忘れて」

距離を取られるから、また前髪とメガネで顔が隠されてしまった。
酔っ払っても、戯れ言でも、思ってもいないことを言う人ではないと知っている。
再び距離を0にして、のぞき込むように見上げる。

「嘘なの?」

真剣な顔と声で問いただしたら、動揺して目を泳がせた後、下からでも見えないように今度は顔を手で覆ってしまう。

「……………本心です」

「うわーーーーっ!恥ずかしーーーーい! どの面下げてそんなこと言ったの!? ちょっと、ちゃんと顔見せてよ!」

「ああ、もう! 忘れてって!」

「絶対忘れないって!」
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