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番外編① ceremony
『それでは始球式を行います。本日始球式を務めていただきますのは、日本将棋連盟所属、棋士の湊純志朗四段です』
ユニフォームを模した縦縞の羽織を着せられて、湊くんはぎこちなく歩き出す。
慣れない袴ゆえに、歩く姿はいつにも増して不恰好だ。
ラインの手前で深々とお辞儀をし、申し訳なさそうに向かったのは、なんと神宮球場のマウンド。
「湊ーーーっ!」
「湊さん、しっかりーーっ!」
スタンドから、笑い声混じりの歓声が飛ぶ。
それも耳に入らない様子で、湊くんはぐるりと一周まわりながら、各方面にお辞儀をくり返すと、最後にキャッチャーとバッターに向かって、土下座せんばかりに頭を下げた。
「湊くーーーん! がんばれーーー!! ホームラーン!」
「あやめさん、違う違う〜。湊さんは投げるほう。打つほうじゃないですよ」
隣で冷静に訂正してくれたのは、今マウンドに駆け寄って湊くんに声を掛けてくれている、藤澤選手の奥様だ。
「あ、そっか。湊くーーーん! 160キロ出せーー!!」
『それではお願いいたします!』
アナウンスにビクッと震えて、湊くんはボールを構えた。
ここ最近、将棋の勉強より頑張って投球練習していたので、なんとかキャッチャーまで届くようにはなったらしい。
それでも、この大観衆に見守られ、囚われた小動物のように怯えながら、ゆっくりと振りかぶった。