gift
いくぶん暑さはやわらいだものの、残暑厳しい九月。
喉を鳴らしてビールを飲む男性たちを横目に、私と柑奈さんは持参したデカフェアイスティーを飲む。
「ビール飲みたい」
「飲みたいですね…」
「柑奈さん、予定日いつですか?」
「五ヶ月に入ったばかりなので、出産まではまだまだです」
「私はあと二ヶ月。二ヶ月の辛抱……」
「授乳中も飲めないから、あと一年と二ヶ月ですよ」
「えーーーっ! そんな……あ、腹筋使ったら尿漏れしちゃった。パットつけててよかった」
「えっ、後期になるとそんなマイナートラブルが…!? 私なんてまだ微妙につわりが残ってるのに…」
試合が始まる前のグラウンドでは、選手たちがキャッチボールをしながら、少しずつ距離を広げていく。
学生時代のスポーツテストで、ハンドボール投げ2mの記録を誇る私は、人体の不思議について思いを馳せていた。
誰が誰なのか、さっぱりわからないけれど、柑奈さんはずっと一点を見つめているので、その先にいるのが藤澤さんなのだろう。
「お疲れさま、あやめさん」
少し息を切らして、前郷さんが隣の席にやってきた。
「お疲れさま。ギリギリだね」
「珍しくお客さんがいたからね」
「柑奈さん、こちら連盟の販売部の店長さんで前郷さんです。前郷さん、こちらは藤澤選手の奥様の柑奈さん」
「はじめまして」
「はじめまして! この前放送された藤澤選手のファインプレー集、見ました! すごいですね!」
「あ、それ私も見ました! 湊くん、録画して何回も見てたから。なんか、座って投げてたやつ」
モノマネして身体をひねったら、また少し尿漏れしたのだけど、柑奈さんは目をキラキラさせた。
「あれはですね、捕球した時に膝をついてしまって、仕方なく上半身の捻りだけでなんとか一塁に送球した神業なんですよ! スローじゃないと見えませんけど、膝でステップ踏んでます!」
「ええー、ステップ踏むなんて膝に穴開きそう。湊くん、こっそり真似してゴミ箱にティッシュ投げてたよ。しかも外したし。藤澤さんもティッシュ投げたりします?」
「投げますね……でも前はほぼ外すことはなかったんですけど、口の狭いゴミ箱に変えたら少し命中率下がりました」