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選手たちはそれぞれのポジションについて、ホームから打たれたボールを、捕っては投げ返す。
左利きの藤澤さんは、他の人と少し動きが違っていて、ほんの少しだけ湊くんと重なる。
前郷さんは、デジカメのシャッターを切っていた。

「右利きの人と変わらないくらい、サラッとこなすよね。なんでもないみたいにさ」

「前郷さん、藤澤さんって、ポーカーフェイスだけど、ファインプレーのあとは、内心めちゃくちゃよろこんでるらしいよ」

「え！そうなの！？」

柑奈さんは苦笑いで答える。

「じつは…そうみたいです。普通によっしゃーって思ってるらしいです……あ、でもダイビングキャッチとか背走キャッチは褒めてもすごく恥ずかしがるというか……嫌がりますね」

「なんか棋士みたいですね。湊くんも対局中は表情変わらないもん。褒めてもだいたい的外れで、呆れられるしさ」

「棋士もいろいろだよ。俺とか、あそこにいる川奈くんなんかは顔に出るよ」

前郷さんが視線を右上に向ける。
そこには棋士仲間が続々と集まっていた。
前郷さんと私が手を振ると、その一団も手を振り返す。

「みんな棋士なんですか？」

柑奈さんは新種の深海魚を紹介されたように、微妙な反応をする。
きっと、どこからどこまでが棋士なのか、全然わかってない。

「棋士とか奨励会員です。湊くんのところ、一門で来てくれたので。あの“HAWAII”って書いたTシャツ着てるおじいちゃんが師匠です」

師匠は袖でビール泡を拭いながら、梨田くんの話にうなずいているけれど、現状を理解しているかどうかあやしいものだ。

「端から二番目にいるのが、この前棋聖を獲得した有坂さんで、その隣が王位に挑戦した(負けたけど)折笠さん。あと……誰がいたっけ？」

単純に野球が好きな人、湊くんをからかいに来た人、誘われて暇だから来た人。
人望が厚いというより、物珍しさと、藤澤さんのサイン欲しさで、人数だけはかなりになった。

SNSでも拡散され、どんどん参加者が増えたので、ひっそりと事を終えるつもりだった湊くんは、日ごとに追い詰められていった。

『市川さん、地元で仕事あるのに、夕方には東京に戻れるから来るって』

『市川さんって？』

『……竜王。あと、王将も持ってる』

『湊くん、知り合いだっけ？』

『何回か話したことある程度だよ。いい人だから、誘われて断れなかっただけだって、絶対！ 来なくていいのに……』

タイトルホルダー、一般棋戦優勝者、棋士会長を含め、人気棋士が多く集まっている。

「なので、将棋界的にはグラウンドより、スタンドの方が遥かーーーーに豪華なんです」