生き続ける意味 **番外編**
「…ヒカリちゃん、帰ろう…
みんな、心配するよ。」
戻りたくない気持ちを抑えて、言った。
ヒカリちゃんは公園の遊具で遊ぶ子供たちを眺めながら、首を横に振った。
「桜ちゃんは戻るの?なんで?」
…え?なんでって……
真っ先に浮かんできたのは、亮樹兄ちゃんの顔。
「…心配する、からだよ。」
ヒカリちゃんが、息をついてうつむく。
「…私には、そんな人いないから。
桜ちゃん、昨日言ってたじゃん。病院に居たくないって。だから、連れてきた…」
昨日?あたし、昨日、ヒカリちゃんと話してないし、会ってもないんだけど…
…え、もしかして。
「夜中、その医者と話してるの見た。その時聞いたの。」
…医者って、亮樹兄ちゃん?
あたし、あんな泣いてる姿見られたの……
ふと隣にいるヒカリちゃんを見ると、どこか悲しげな目をしていて、遠くを見つめていた。
……なんでそんな時間まで起きてたんだろう。
なんでわざわざあたしを誘ったの…?というか、強制的に連れてこられたんだけど。
いろんな疑問が浮かぶけど、飲み込んだ。
「…そんなこと…ヒカリちゃんだって……」
「私にもいるって?心配してくれる人が!」
強い口調で、言った。
…ヒカリちゃんにもいる、そう言おうとした。
だって、自分のことを大事にしてくれる人が一人もいないなんて、ない。
けど、実際、あたしはヒカリちゃんのお父さんやお母さんのことを何も知らない。
亮樹兄ちゃんは、なにか複雑な事情があるとか言ってたけど…
「…いるよ。絶対いる。」
それは、わかるもん。
「…なんでそんなこと言えるの。私の事なんて知らないくせに。」
言い捨てるように言い、ため息をついた。
…知らないよ。たしかに、ヒカリちゃんのことはよく知らない。けど、いるんだよ。大切にしてくれる人は。
…誰もいないはず、ない。
「…私さ、両親がどこにいるかしらないの。
…っていうか、私を捨ててどっか逃げた。小さい頃にさ。」
……亮樹兄ちゃん、複雑な事情って事のこと…?
「だから、親なんていないし、周りに信用出来る人なんていない。
…桜ちゃんはいいよね。大切にしてくれる人がいて。」
「…あたしも、両親はいないよ。ヒカリちゃんが見たお医者さんは、あたしを引き取ってくれてる人。
あたしにとっては、親代わりのお兄ちゃんだけど。」
あたしの言葉を聞き、びっくりしたようにこちらを向く。
「……両親いなくて、病気にかかって。
大変なんだ。桜ちゃんの人生。」
…大変?うん、確かに大変。
けど、不幸なんて思ったことは1度もない。
「大変…だけど、自分が不幸だって思ったことはないかな。
亮樹兄ちゃんや友達がいてくれるから。」
ヒカリちゃんは乾いた笑いをした。
「ふふっ……
そんなこと言えるの?だって、両親はいないし、ガンにかかってたんでしょ?
里親や友達がいたって、自分の運命はどうしようもできないでしょ。」
ヒカリちゃんの言葉を聞いた瞬間、カチンときた。
わからない。けど、とにかく腹が立った。
「…言えるよ。
本当にあたしは、不幸だって思ったことない。
あたしは、みんなに支えられてるから。
たとえ、病気になったって、そんなこと思わない。」
ヒカリちゃんが勢いよく立ち上がり、あたしに向かった。
「…なにそれ。自分は恵まれてるって?
私とは違って、不幸じゃないって?」