生き続ける意味 **番外編**





「っ…ちがう!そんなこと言ってない…思ってもない…!」



必死で抗議するも、ヒカリちゃんの勢いは止まらない。



「桜ちゃんだって、昨日、その先生にあたしなんがいない方がいいなんて言ってたくせに…!」



…そこまで聞いてたの…?


あたしは、思わずだまってしまった。何も言う言葉が見つからなくて。



「…たしかに、思う時はあるよ。

あたしなんか、迷惑だって。いない方がいいんだって。

けどね、その度に亮樹兄ちゃんや友達が気づかせてくれるの。あたしは、ここに居なきゃいけないんだって。

…必要とされてるんだって。」



だから、自分の不幸って思ったことなんて、1度もないんだよ。


ヒカリちゃんら黙り込んで、顔をしかめた。



しばらく経った後、つぶやく。


「…いいよね、桜ちゃんは。だからわからなかったんだ。」


寂しそうな、小さな声。


…どういうこと?



「私、わかるんだ。自分の同じような恵まれなかったり、自分のことを不幸だって思ってる子は、見た瞬間わかる。だって、そんな雰囲気を出してるから。

…けど、桜ちゃんを見た時、そう思わなかった。むしろ、普通の家庭で育った子、かと思った。そんな事情抱えてるなんて、思わなかった。」


…ヒカリちゃん。

ヒカリちゃんの瞳が潤んでいて、唇を噛み締める。


子供たちの声や、雑音が遠く聞こえる。






「私さ、死にたいんだ。」



突如、今まで流れていた空気が壊れたような感覚になった。



……死ぬ?



ヒカリちゃんは顔を上げると、作り笑いをした。


「死にたい。ずっと前から思ってた。

まさか、今病気にかかるなんて思わなかったけど。…しかも、死ぬ病気とか。」


死ぬ病気……?



「…私もガンだよ。それも進行が早いやつ。

どっちにしろ、死ぬんだけどね。遅かれ、早かれ。」



…どうして、そんな事を軽く言えるの?

なんで笑いながら言えるの?



あたしは首を振った。


「…簡単に、死ぬなんて言わないで。どんな病気なんて知らないけど、必ず治療法はあるって…」




「あるよ。けどね、いいの。しないからさ。

…ほら、いるんだよ。この世に必要な人間と、いらない人間って。私は、いらない人間。

…桜ちゃんは、必要な人間なんだよ。きっと。」




あたしはぶんぶん首を振る。


「ちがう!いらない人なんて、そんなの一人もいない!

必要とされる時は絶対あるんだよ!」



ヒカリちゃんは首を横に振る。


「…そんな綺麗事、信じれないから。
いいじゃん。必要とされてる人はさ、そう思えるんだよ。」


…そんなことない、絶対ないよ。


あたしは、両親はいないし、ほんとにひとりぼっちだった。

けど、いろんな人に支えられて今ここにいる。




…けど。ヒカリちゃんの瞳があまりにも深い悲しみに満ちていて、何も言えなかった。




「…見せてあげる。」



…え?

なにが?そう思って、ヒカリちゃんを見上げた瞬間、手を握られた。




「…私が、どれだけ死にたいか、教えてあげる。」





< 179 / 212 >

この作品をシェア

pagetop