生き続ける意味 **番外編**
優しく頭を撫でると、額に濡らしたタオルを当てた。
早く、病院に行かないと。
そう思い、桜に上着を着させようとした時。
「んっ……」
桜がうっすらと目を開けた。眩しそうにまばたきする。
「桜?大丈夫か…?」
桜の隣に座った時、桜の目から大粒の涙があふれた。
何を言う訳ではなく、ただ泣いていた。熱が高いせいもあって、頬が赤くて、息もどんどん苦しそうになってきた。
「ん…?桜?」
軽く頭を撫でると、小声で何か言った。
「ん?なに?」
「ごめっ…なさい……」
ぼろぼろと涙を流して、言った。
「亮樹兄ちゃんっ……ごめんなさいっ……んっ……」
俺は桜を起こして、座らせて、背中をさすった。
「桜?あんまり泣くと苦しくなっちゃうよ?」
それでも、桜は泣くだけで。
「病院、抜け出しちゃった……また、迷惑っ……かけて…」
大きな声で泣き出した。
「桜、大丈夫だよ。一旦、落ち着いて…」
なんとか泣き止まそうとするけど、泣き止むどころか、どんどん涙があふれていく。
「あたし、やっぱいらない……いない方がいい…」
「…桜。」
「あたしなんか、いなくなればっ……!」
「桜っ!!」
自分でも驚くほどの怒鳴った声が出た。
桜は一旦ピクっと固まって、徐々に肩が震えだした。
しまった……
思わず、桜を膝の上に乗せて抱きしめた。
すると、吹っ切ったように泣き出した桜。
「ごめん…」
そう言って、あやすことしか出来なかった。
「亮樹兄ちゃんっ……あたし、やだ……」
か細い声で言った。
「なにが…?」
桜は俺の顔を見ると、
「亮樹兄ちゃんにっ…嫌われたらって……
あたし、嫌だ……!病気も、入院も嫌だけどっ…こんなに迷惑ばっかかけてたら、いつか亮樹兄ちゃんに嫌われるって…
だからっ……ひっく…ふぇっ…」
俺の服の裾をぎゅっと掴みながら言った。
目は潤んで赤くなってるし、涙でぐっしょりだし、熱があって熱い。
俺は桜の頬を両手で包み込むと、ゆっくり言い聞かせた。
「…桜、いい?今はこれだけ聞いて。
俺は、絶対に桜のことを嫌いになったりはしない。」
桜は不安そうに首を振った。
「ううんじゃないよ。嫌いにならないの。
…あのね。こうやって病院から出て行っちゃったり、わがまま言ったりすると、怒るよ?叱るよ?
けどね、そんなことで嫌いにならない。
たしかに、今まで、いっぱい迷惑も心配もかけられた。けど、そんなことで嫌いになったりなんか、1度もしなかったよ?
だって、桜のことが大好きだから。なんとかして、早く元気になって欲しい、それだけだったから。
血が繋がってなくても、桜が大切なのに理由なんてないよ。
ただ、俺にとって大切な存在なの。いなきゃダメな存在なの。
…もっと、俺を信用してよ。ね…?」
ゆっくり言い聞かせると、桜はまた涙を流して、ゆっくりうなずいた。
「…ほんと…っ?」
「うん、本当だよ。嘘なんかつかない。」
そう言うと、少しだけ桜が微笑んだ。