めはくちほどに
夜は更ける
すぐにお風呂の用意をしに、と立ち上がろうとするけれど、副社長の手が離れない。
どうしたものか、と副社長の顔を見るより先に引っ張られた。
ぐらりと身体の支えをなくし、副社長の方へ倒れる。掴まれていない方の手をテーブルにつこうとするのも間に合わず、副社長の膝の大腿の上についてしまった。
「……副社長?」
「しー」
抱きしめられている。
頬が副社長のワイシャツに当たっていた。他人の心臓の音なんて聞こえはしないけれど、自分の心臓の音は煩いくらい聞こえた。
離れないと。
離れないと、どうにかなってしまいそう。