めはくちほどに
ああ、私たぶん。
この人のことが好きなんだ。
顔を上げると、頬に口づけが落とされる。その唇の温度を私が知っている。
「目は口ほどに物を言うんだよ」
「……え」
「君、可愛いね」
我に返る。急に現実味を帯びて、この体制とこの環境に赤面する。
ここ家なんですけど!
妹二人が部屋から出てリビングの陰からこちらを見ていたら……。
そう思って副社長から離れて、振り向いた。
誰もいない。
「どうしたの?」
「お風呂! 入れてきます!」
「お願いします」
すぐにそこを退いて、風呂場まで走った。走るほどの距離でもないけれど。