めはくちほどに
全然ゆっくりせずに副社長は出てきた。
「烏の行水ですね……」
「うん、お先に」
「はい。何か飲みますか? 申し訳ないですけどビールはないです」
「飲まないよ、流石に。紺野さん、お風呂は?」
入ってきます。と言っても、私も人のことを言えないくらい烏の行水だ。
髪を乾かしていると、副社長が洗面所にやって来た。
「髪の毛乾かします?」
「いやー暑いから良いや。歯ブラシってある?」
「あります。私の歯磨き粉でも良いですか?」
「うん、貸して」
棚から封を切っていない歯ブラシを取り出して渡した。
副社長はそれを受け取り、口に咥える。