めはくちほどに
「じゃあまた後でね、河上」
「はいよ、またね」
台車を押して秘書課を出る。一緒に出てきた副社長がこちらを見ていた。
私の顔にチョコでもついているだろうか。
「総務課の紺野さんの顔だね」
「総務課の紺野ですから。あ、そうだ」
エレベーターの前でとまり、ボタンを押す。
「お姉ちゃん、いつでも大丈夫らしいです。今日にでも行こうかな、なんて言ってましたよ」
「僕はいつでも大丈夫だよ」
「じゃあ今日家に来ます?」
「うん、ケーキ何個いるんだろう」
ケーキを買うつもりか。エレベーターが開く。台車を押している間、副社長が手で押さえていてくれた。