めはくちほどに
ありがとうございます、と頭を下げる。
「今日の夕飯、餃子ですけど大丈夫ですか?」
「もちろん」
扉が閉まる。良かった、と胸を撫で下ろした。
何気に、社内で話すって初めてだ。
だから総務課の紺野さんって言われたのかな。
台車を備品室に戻して、総務課に帰る。河上のおかげで噂とかはたっていないし。
今日の冷麺、奢ろうかな。
定時に社を出て、少し辺りを見回した。
タクシーを探しているわけではなく、副社長を探している。
思えば私、あの人の連絡先すら知らないんだよね。
内線番号は暗記しているけれど。