お茶にしましょうか
「だ、駄目なら、駄目だと言ってくれれば良かったのに…!」
江波くんは、慌て気味におっしゃいました。
しかし、私にとって、このお誘いは、とても貴重なものでありました。
江波くんから、お声をかけていただいて、一緒に帰ることが出来るだなんて、夢のようでした。
未だ慌ててらっしゃる江波くんを見ていては、思わず、笑みを漏らしてしまいます。
そして、私は言いました。
「駄目だなんて、そんな…私は、とても嬉しく想いましたよ。ただ、私が公園へ寄るため、途中までであることを黙っていて、申し訳ありませんでした」
「い、いえ。あ、あの!むしろ…」
江波くんは、少し何かを言いかけました。
私は次の言葉を、静かに待っておりました。
「あの…もしよかったらで良いんですが、練習しているところ、見ていても良いですか」
江波くんのそのようなお言葉に、私は思わず、目を大きく開いてしまいました。
しかし、私がいけない、だなんてことを言える理由も特に見当たらず、二人そのまま公園へと向かったのです。
江波くんは、公園に着くと、地べたに自身の鞄を置かれました。
そして、譜面台を準備する私に、歩み寄ってらっしゃいました。
私は譜面台の組み立てに、集中していたはずでした。
しかし、一歩一歩、近づく彼の足音に気を取られてばかり居たのです。
目は譜面台のねじを、耳は江波くんを捕らえていたのです。