お茶にしましょうか
「あ、あの…それは…」
突然に江波くんの目が、泳ぎ始めたのです。
それだけではなく、江波くんはいつも以上に、落ち着かない様子になってゆきました。
「江波くん?」
「えっ、あ、はい!すみません…!」
私が少し、お名前をお呼びしただけで、彼の肩が大きく跳ね上がりました。
かと思うと、江波くんは途端に、何かを決意したような瞳へと変わったのです。
その瞬間、その場の空気が一変しました。
冬らしい冷えきった風が、強く吹き、辺りの木の枝を揺らしました。
その風が止み、静寂に包まれると、江波くんは深い、深い深呼吸をされたのです。
彼がこれから、何とおっしゃられるのか、予測もつかず、私は少し不安になっておりました。
「…萩原さん」
江波くんに名前を呼ばれ、確かに目が合うと、逸らすことが出来なくなってしまったのです。
彼の視線は、とても強いものでした。
「少し話しがしたくて、あなたを誘いました。今しても、良いですか…?」
私は、静かに頷きました。
江波くんは私の反応を確かめると、そのままお話を始めたのです。
話し始める直前に、少し唇を噛み締めてらっしゃいました。
「あの、額の怪我は、綺麗に治りましたか?」
「え、額?」
その質問とは、あまりにも唐突なものでした。