お茶にしましょうか

「どうかされたのですか?」



私が尋ねると、江波くんは今日だけでも幾度と見せた、強い瞳で私を捕らえました。



「あの…俺なんかに憧れてくれて、まず、ありがとうございます。
俺の疑心が晴れたところで、萩原さんに、やっと伝えたいことがあります」

「ふふ。それは、何度もお聞きしましたよ」

「うっ。あ、あの…俺…!」



真っ赤なお顔をされた江波くんに、更に愛しく感じ、私は彼をじっくりと見つめました。



「お、俺は、あなたに…は、萩原さんに…」



私は、じっくりと彼を見つめました。



「あ、あの、えっと……あの…

「江波くん?」



とうとう江波くんは、黙り込んでしまわれたのです。

そんな彼もやはり可愛らしい、と思ってしまったのです。






そして、私たちはそのまま、途中まで下校しました。

それ以来、江波くんには会えていません。

しかし、別れる際に一言、江波くんが言い残してくださいました。



『俺は、萩原さんが…貴女が…が、楽器を吹いている姿が、好き、です。大会、頑張ってくださいね…!』



大会こと、アンサンブルコンテストは無事、評価として、金賞をいただくことが出来ました。

しかし、今でも江波くんの言葉が、私の糧となっております。

江波くんからいただいたもの、だからこそです。

あの日とは、本当に幸福な一時となりました。

彼に出会うことができ、ここまで会話を交わすことが出来るようになったのも、今は無き額の怪我のお陰様なのです。

本当に、有り難いことだったのです。







Scene 19 幸福なる有終日前夜
< 116 / 160 >

この作品をシェア

pagetop