お茶にしましょうか
「どうかされたのですか?」
私が尋ねると、江波くんは今日だけでも幾度と見せた、強い瞳で私を捕らえました。
「あの…俺なんかに憧れてくれて、まず、ありがとうございます。
俺の疑心が晴れたところで、萩原さんに、やっと伝えたいことがあります」
「ふふ。それは、何度もお聞きしましたよ」
「うっ。あ、あの…俺…!」
真っ赤なお顔をされた江波くんに、更に愛しく感じ、私は彼をじっくりと見つめました。
「お、俺は、あなたに…は、萩原さんに…」
私は、じっくりと彼を見つめました。
「あ、あの、えっと……あの…
「江波くん?」
とうとう江波くんは、黙り込んでしまわれたのです。
そんな彼もやはり可愛らしい、と思ってしまったのです。
そして、私たちはそのまま、途中まで下校しました。
それ以来、江波くんには会えていません。
しかし、別れる際に一言、江波くんが言い残してくださいました。
『俺は、萩原さんが…貴女が…が、楽器を吹いている姿が、好き、です。大会、頑張ってくださいね…!』
大会こと、アンサンブルコンテストは無事、評価として、金賞をいただくことが出来ました。
しかし、今でも江波くんの言葉が、私の糧となっております。
江波くんからいただいたもの、だからこそです。
あの日とは、本当に幸福な一時となりました。
彼に出会うことができ、ここまで会話を交わすことが出来るようになったのも、今は無き額の怪我のお陰様なのです。
本当に、有り難いことだったのです。
Scene 19 幸福なる有終日前夜