お茶にしましょうか
今ではこのノックですら、時折足が竦むことがある。
青空を滑る様に、自分を目掛けて飛んでくるボールを目で追う。
すると、またあの時のエラーがちらつく。
また俺の思う少し前方に落ちる。
慌てて拾おうとすれば、汗で滑り、全てが間に合わずに終わる。
全ては俺のせいだった。
過去に縛られ続け、現在行われている練習にすら集中出来ていない。
そして、思う様なプレイが出来ない。
全ては恐怖心から来るものだ。
それでもやる、と決めた。
あの子の言う通り、信じることを諦めない、そう心に言い聞かせる。
それでもなお、恐怖の圧力が俺にのしかかる。
悔しい程に、足の震えは止まりそうもなかった。
「畜生…」
『…自分や、仲間を信じているからこそ、ではないのですか』
あの子の声が、頭でまたもちらついた。
ぐわん、ぐわんと揺さ振る様に頭を響く。
「わかってる、わかってんだよっ…」
俺は声を絞った。
葛藤している間に、俺とボールの距離が縮んでいた。
グラブの手を空に翳し、こんな大袈裟な賭け事を考えた。
そして、誰にも聞こえない様に呟いた。
「落とせば、辞退。捕れたら、継続。…そして、ほんの少し、上を目指す…!」
その直後にきたグラブが良い具合に響く音と、何とも心地好い衝撃が俺を高揚させた。