お茶にしましょうか

まずは、事態が少しでも好転するよう、予防線を張っておくことにする。

あまり印象好く想っていない相手から、好かれたって、迷惑なだけだろう。

それどころか、今以上に嫌われたくはない。

あのことを恨まれていたとしたら、俺はどうしようもないのだ。

そうして、額の傷に関して聞けば、萩原さんは静止する。

彼女のことであるから、俺に気を遣わせないよう、傷が残っていたとしても、隠そうとしてくれているのだろうか。

そう思い、自分でも知らぬ間に、彼女の前髪に触れる、という大胆な行動に出ていた。

萩原さんの顔に触れるなど、よくよく考えれば調子に乗ってしまい、自分が恥ずかしくなる。

しかし、確認した限りでは、額の傷は本当に綺麗に完治していた。

心底、安心した。

しかも、あの深海魚さながらのコブを、彼女は「偶然の奇跡」だと言う。

呆気に取られていると、その場の雰囲気をすべて持っていかれていた。



「待ってください」



俺は、彼女に甘えてばかり居ては、いけない。

あと一つだけ、明らかにしてしまえば、俺はすんなりと言えてしまうはずなのだ。

あの件を恨まれていないか、それだけだ。



「俺のことを恨んではいないんですか?実は、恨んで、いますよね…?」

「恨む…?どうしてそのようなことが出来ましょうか。私にとって、江波くんは憧れでしかありません」



彼女は俺に憧れている、などと言う。

俺の一体、どこにだというのだろうか。

しかし、真剣な彼女の眼差しには、参った。

信じなければ、失礼だろう。

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