お茶にしましょうか
さて、準備は整った。

今こそ気持ちを伝えよう、そう考えた時だった。



「私は貴方が好きです!」



構える余裕も与えられず、不意を突かれ、思わず俺は、照れ隠しの様な事をを言ってしまった。



「リョウさんのことは…良いんですか?」



すると、彼女は自信を持った表情で、こういったのだ。



「リョウさんのことも、もちろん、とても大好きです!」



俺の時はただ「好き」で、リョウさんは「とても大好き」らしい。

胸に何かが突っかかった。

しかし、俺も俺だ。

言わなければ、気持ちなど伝わるものではない。

言おうとした。

しかし、やはり俺だ。

彼女に見つめられ、あがり症が出てきたかと思えば、言葉が出てこなくなった。

ああ、情けない。

そこで、公園での会話は終了してしまった。

その後は、ほぼ無言で帰り道を歩く。

お互いの帰路が、ここで別れると分かったところで立ち止まる。

別れる真際、最後くらいは決めなくては、と思ったが、先程の照れ隠しと嫉妬が再び現れた。



「俺は、萩原さんが…貴女が…が、楽器を吹いている姿が、好き、です。大会、頑張ってくださいね…!」



これは嫉妬だったのかもしれない。

普段は己の心の中でも、彼女の前でも「リョウさん」と言うのだが、この時ばかりは意地汚く「楽器」と言ってしまった。

ああ、何とも情けない。

これで、俺の挑戦は終わった。

俺の自宅で待つ、奴らに何と伝えようか。

自宅前に一人で着き、落ち着かぬ思いで扉を開く。

しかし、靴などを見ても奴らの気配はない。

すると、奥から母親が出てきた。



「おかえり。遅かったわね。何してたの、あんた。
せっかくみんなが来てくれてたのに、あんたが遅いから、って言って帰っちゃったわよ」



ああ、何と自由奔放な奴等よ。
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