お茶にしましょうか
ある日の朝練を終え、教室へと向かっている最中であった。
男大勢で特に何の意味も無いが、バタバタと大きな音をたて、風を切る様に駆けていた。
周りから見れば、少し不気味なのではないだろうか。
皆が次々と立ち止まる。
昇降口に差し掛かった時、よく見知った後ろ姿を見つけ、思わず俺はゆっくり足を止めた。
通称「深海魚」と呼ばれていた彼女だ。
俺が彼女に怪我をさせてしまった、という罪悪感が勝って、以前は近寄ることが恐ろしかった。
しかし、本当に不思議なことに今という今は、気分が浮足立つ様だ。
とりあえず、何を言えば良いのだろうか。
謝罪、感謝そして謝罪、いくつかの想いが入り乱れる。
静かに歩み寄り、俺はそっと深呼吸をした。
「…お、おはよう」
振り向いた彼女は、俺から声をかけたことに対し、意外だとでも思ったのか、しばらくの間俺を見つめていた。
そして、にっこりと柔らかく微笑んでくれた後に、彼女はこう言った。
「おはようございます。朝から貴方に会えて、とても嬉しく思います」
緊張感は以前から何一つ変わらないが、恐怖感に変わるこの満足感は、一体何を意味しているのだろう。
残る日々のこれからも、この子が何かを教えてくれるのだろうか。
そんな有り得ないことを、図々しく期待する俺を密かに胸にしまった。
Scene 4 大きな小心者