お茶にしましょうか


私は約束通りに、放課後には、野球のグラウンドへ足を進めておりました。

今日はせっかくですから、グラウンドの近くで練習しようと、考えました。

ですから、私は背中にお馴染のリョウさんを携えております。

グラウンドが見えてきた頃、グラウンド付近に一人分の人影を見つけました。

その人物は、この学校の制服は身に着けていませんでした。

工場(こうば)の作業着でしょうか。

鼠色のつなぎを着ています。

学校の先生にしては、後ろ姿が少し若過ぎます。

その人物は、ただ野球部の練習を眺めていました。

しかし、徐々に近寄っていくと、私はその立ち姿に見覚えがあったのです。



「江波くん…?」



思い当たる人物の名を呼べば、その方はゆっくりと振り返ってくださったのです。

そして、彼は私を見ると、控え目に微笑み、軽く会釈をしました。



「こ、こんにちは。お元気でしたか?」

「ええ。でも、今はもっと元気になりました。江波くんのおかげです」



私がそう言えば、そんな…と狼狽えてみえます。

変わらない、謙虚な彼が好きです。

この空間に対する、幸福な気持ちに私が浸っていると、江波くんがこちらに何かを差し出しました。



「あの、これ…」



私は、そちらに目を向けました。

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