お茶にしましょうか
江波くんは、私を見つめると、優しい表情で言います。
「萩原さんにも、会えたらいいなと、思っていました」
「ふふ。私もです」
今、こうして二人で向き合えています。
初対面の頃から順に思い返せば、このようなことは、有り得ませんでした。
江波くんは、私と一瞬でも目を合わせることすら、ままならなかったのです。
そして、それに加えて、彼には何度も、前を向く機会をいただきました。
そもそも江波くんが、この野球のグラウンドから、4階にある音楽室までボールを届かせていなければ、私たちが出会うことなど、まず有り得なかったのですから。
これは本当に「偶然の奇跡」でした。
しかし、この出会いは、必然的なものであったと、私は思いたいのです。
なぜなら、校舎の4階までボールが届いてしまうなど、普通で考えれば、笑ってしまいそうなほど、可笑しなことでしょう。
「江波くん」
「はい」
あの江波くんが私に向けて、幸福そうに微笑んでくださいます。
ですから、私は幸福で仕方がありません。
「もしご都合よければ…これから、お茶しませんか?」
「つ、慎んで」
地面に居たリョウさんの入ったケースを、肩に担ぎ上げました。
そして、思い出深い、あの公園へ向かおうと思います。
それでは、また何処かでお会いしましょう。
お茶にしましょうか
おわり。
皆様、どうかお元気で。