お茶にしましょうか
服装は昼間とは違い、上下ジャージ姿でした。
あたりも暗く、あまりよく見えませんでしたが、手には大きなカゴを抱えていたのです。
その中身は、野球の道具でしょうか。
よくはわかりません。
たった一人で運んでいます。
彼女の歩いてきた後ろを目で辿っていくと、まだまだ似た様なカゴがたくさん積まれていました。
それを見て見ぬふりなど、私はとてもできませんでしたので、思わずフェンス越しに、彼女へ声をかけてしまいました。
それはいつかに、江波くんに声をかけた様にです。
「お一人ですか?」
そう問い掛けると、彼女は驚いたのか少し肩を強張らせ、ゆっくり振り返ってくださいました。
「もし良ければ、お手伝い致しましょうか?」
私は我ながら何をしているのだろう、と思いました。
もしかしなくとも、彼女は私にとっての恋敵であるかもしれないのですから。
そんな相手とたった今、並んで歩いています。
昼間、江波くんと仲よさ気に会話をしていた女性は、どうやら野球部のマネージャーであった様でした。
しかし、いくら毎日お世話をし、顔を合わせる様な仲といえど、男の子があの様に笑うでしょうか。
どうしても気になり、仕方がないので、彼との関係を回りくどく尋ねました。
「野球部に江波くんという方が、いらっしゃいますよね。ご存知でいらっしゃいますか?」
「ええ、幼なじみですが」
彼との関係を回りくどく尋ねる、つもりでした。
しかし、これで決定です。
彼女は私にとって、恋敵でした。
Scene 5 早過ぎる恋敵 1