お茶にしましょうか
そんな江波くんの隣には男子1人と、あのマネージャーの彼女が立っていたのです。
「ちょっと、あんた何、女の子吹っ飛ばしてるのよ」
「いや、好きで吹っ飛ばしたわけじゃ…」
「言い訳してんじゃねぇよ。可哀相だろ、早く起こしてやれよ。
せっかく引っ込んだ『でこのこぶ』がまた出てきたら
どうすっぐっ…?!」
先程まで話していた男子が何故か突然、脇腹辺りを押さえ、崩れ落ちてゆきました。
何かに耐えている表情のその彼に釘付けになっていると、またも江波くんは、私に手を差し延べてくださいました。
その手に従い、私は手を彼の手に重ね、引っ張り上げていただいたのです。
こんな風に触れ合ったのは初めてでしたので、とても恥ずかしい想いでした。
「ありがとうございます…」
「い、痛いところは…」
「平気です。少し痛いだけでした、お尻が」
私はそう言っただけでしたのに、江波くんはばつが悪そうに俯いてしまいました。
もしや「おしり」という単語が、少しばかり下品だったのでしょうか。
思いもしていませんでしたが、深く後悔しました。
きっとこの後悔はたった今、表に表れていると思います。
なぜなら、江波くんとお揃いで、顔全体が真っ赤に染まっているはずだからです。
しばらくの間、二人して赤くなり静止していたものですから、マネージャーの彼女は痺れを切らし、ため息を一つつきました。
「貴女とこいつ、何か似てますね」
「え…!そうでしょうか?!」
彼女からの意外な台詞に、思わず喜んでしまいました。
しかし、彼女は私の恋敵です。
嫉妬である可能性もあります。
ここは、用心に用心を重ねることにいたします。
「二人とも、お似合いですよ。こいつには、貴女の様な人がしっくりくるかと」
「それは一体…」
「こいつにもそろそろ、彼女が必要なんじゃないか、って思いましてね」
「なっ、お前っ…!」
「何、まだ言うの?「俺は野球に専念したいんだ」って」
「まっ、待って下さい!!」
私は今、とても混乱しております。
慌てて止まっていただきました。
順に台詞を追っていくと、私が今までに思っていたことと、何一つ噛み合わないではありませんか。
今まで悩んだ私は、無駄だったのでしょうか。
「てっきり私、お二人は相思相愛なのだと思って…」
「次にそんなつまらないことを考えれば、どうなるかをよく考えておいてくださいね」
ええ、今まで悩んでいた私は、無駄でした。