お茶にしましょうか
彼女は無表情でしたが、どこかに陰を潜ませる様にそうおっしゃったのです。
少し恐ろしく感じましたが、完全なる悪い方では無いように思えました。
「勝手に落ち込んでいた私は、馬鹿でした」
「全くです。こんな弱いやつが、私に釣り合うとでも?」
彼女は腕を組みながら、呆れた様子でした。
私から見た彼女の第一印象はたった今、覆されました。
全くというわけではありませんが、表情はそう多くありません。
そして、愛らしいお顔でありますのに、とても毒の様な舌を持っておられます。
しかし、全く悪い方ではない様です。
むしろ、私は彼女に好感が持てました。
「いろんな意味で安心いたしました。貴女のことも、江波くんのことも」
ふん、と彼女は鼻を鳴らし、私から目を逸らしました。
しかし、構わないのです。
彼女の核となる部分に、触れることができた様に思っております。
まだまだ仲良くなることができる、そんな気がするのです。
余裕を持って、微笑むことが出来ました。
ふと江波くんを見ると、瞬きを何度も何度も繰り返していました。
「どうかされましたか?」
「いや…今、『江波くん(おれ)のことも』って…それって、その…」
何かを言いかけて、止めてしまわれた江波くんはどこか悩ましげでありました。
すると、マネージャーの彼女は如何にも気怠そうな様子で彼を見て、私にこう問いました。
「彼氏とか居るんですか?」
私は、決まりきったことの様に答えました。
「もちろん」
そう言うと、江波くんは物凄い勢いでこちらを見たのです。
その表情は驚きの様な、絶望の様なよくはわからない、曖昧なものでした。
とにもかくにも、よくわからなかったので、彼は私の声を聞き逃した、と無理矢理に解釈をすることにしました。
そして、もう少し明確に答えることにいたします。
「愛人がいます」
「あうぃじんっ?!」
「…あいじん…」
「あ、ああ…あいっ、あ…」
どうしてか、私の台詞に彼らは、豆鉄砲をくらった鳩の様でした。
今までずっと、うずくまっていた男子すらもです。
私は彼らの反応に、いまいち理解ができませんでした。
「ええ、ちょうどこれから会いに行くところです」
ますます彼らは、動かなくなってしまいました。
こうしている間にも、私の愛しい相棒は4階の音楽室にて、真摯に私を待ち侘びているのです。
Scene 6 早過ぎる恋敵 2