お茶にしましょうか
Scene9 超えるべき己と現
準決勝 2-1
9回裏 2アウト 1・2塁
うちは前者だ。
うちの野球部といえば大体、毎年二回戦目で詰まってしまうことが定番だった。
だが今は、あと一つ。
あと一つ、アウトさえとれば―
初めての状況に誰もが皆、すがるような想いでいた。
あと一つアウトをとれば、決勝戦なのだ。
内心では皆、興奮しているのだと思う。
メンバーの調子もモチベーションも、見るからに好調だ。
ただでさえ、今の時点でベスト4入りしている。
本来ならば、常連校の名が4つ並んでいるはずだった。
それなのに、ほぼ無名であるうちの学校名がそこに並んでいる。
夢の中で見る夢にも思っていなかった。
新聞にある高校野球の頁なんかでは、うちの学校は「ダークホース」呼ばわりだ。
このような結果を呼び寄せている理由とは、何か。
もともと打ちの打線は、積極的な者が多い。
いや、それもあるが結局、最後には自滅してしまう、いつもそんなものだった。
それよりも、こちらに注目するべきだろう。
たった一人の3年生投手だ。
1年生の頃から、共に朝晩と練習に励んできたが、彼の成長はチームの中でも著しかった。
入部当初、彼の投げるストレートは120km/秒とちょっと、というものだった。
それが今では、130km/秒を余裕で超える。
常連校にとって130km/秒超えることくらいは、当たり前のことなのだろう。
しかし、うちには全学年を合わせて、この3年生ただ一人しかいない。
非常に、貴重な存在なのだ。
彼は、本当に努力家だ。
俺が一番、見習わなければならない。