お茶にしましょうか



現在、ピッチャーの球数は、あと少しもすれば180をむかえようとしていた。

徐々にピッチャーにも、疲れの色が見え始めていた。

彼には元々、スタミナがある方ではなく、今は非常に踏ん張っていることがよくわかる。

幸いにも未だ、甘い球はそこまで目立たない。

あったとしても、相手方も余程、強張っているらしい。

珍しく打ち損じてばかりいた。

チームメイトの誰もが、この試合いけるかもしれない、ベンチ、応援席、フィールドに立つ者たち、皆が思っていたことだろう。

その時だった。

キンッ―

嫌に甲高い音が、場内に鳴り響く。

そのように思ったのは、俺だけだったのだろうか。

考えている間にも、白い球体はセンターを目がけて飛んできた。

フォローのために、必死に駆けだす。

しかし、様子がおかしい。

こちらがどんなに走っても走っても、ボールが落ちてくる気配はない。

それどころか、大きく大きく緩やかな弧を描いて…

気づいた時には、外野をも超えていた。



『―逆転!サヨナラ勝ち!!』



それは見事に、ホームランだった。

対戦校を応援していたであろう人々が、関係者らが、大歓声を上げる。

その瞬間にちょうど、心の臓が存在するあたりを思い切り、えぐられる様な想いがした。

そこではじめて、無理矢理に、現状を受け入れさせられたのだ。
< 33 / 160 >

この作品をシェア

pagetop