お茶にしましょうか
現在、ピッチャーの球数は、あと少しもすれば180をむかえようとしていた。
徐々にピッチャーにも、疲れの色が見え始めていた。
彼には元々、スタミナがある方ではなく、今は非常に踏ん張っていることがよくわかる。
幸いにも未だ、甘い球はそこまで目立たない。
あったとしても、相手方も余程、強張っているらしい。
珍しく打ち損じてばかりいた。
チームメイトの誰もが、この試合いけるかもしれない、ベンチ、応援席、フィールドに立つ者たち、皆が思っていたことだろう。
その時だった。
キンッ―
嫌に甲高い音が、場内に鳴り響く。
そのように思ったのは、俺だけだったのだろうか。
考えている間にも、白い球体はセンターを目がけて飛んできた。
フォローのために、必死に駆けだす。
しかし、様子がおかしい。
こちらがどんなに走っても走っても、ボールが落ちてくる気配はない。
それどころか、大きく大きく緩やかな弧を描いて…
気づいた時には、外野をも超えていた。
『―逆転!サヨナラ勝ち!!』
それは見事に、ホームランだった。
対戦校を応援していたであろう人々が、関係者らが、大歓声を上げる。
その瞬間にちょうど、心の臓が存在するあたりを思い切り、えぐられる様な想いがした。
そこではじめて、無理矢理に、現状を受け入れさせられたのだ。