お茶にしましょうか



「きゃっ」



そこには、在るはずのない壁があったのです。

打つかった衝撃で、私は尻餅をついてしまいました。

見上げれば、目の前には、高くどこまでも続いていそうな壁ではなく、柱がありました。

いえ、よく見てみれば、それは人であり、江波くんだったのです。

夏休みの間は、一度も会えず、約1ヶ月でしょうか、私と江波くんはそれ程振りだったのでした。

あまりにも嬉しかったものですから、しばらく愛しの江波くんを見上げては、涙ぐんでしまいました。

江波くんはというと、そのような私を見て、不思議だという風に首を傾げておられました。

その後、江波くんは何かに気付き、それを拾い上げたのです。

すると、江波くんはこれでもか、という程に目を見開き、私にそれを静かに差し出しました。



「…あ、お、落としましたよ」

「すみません、どうもありが―」


差し出されたものに目を下とすと、それより先の言葉が出てこなくなってしまったのです。

江波くんからそれを奪い取り、慌てて職員室から走り去ったのでした。

もちろん私の中にも、羞恥心というものは、存在しておりますから。
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