お茶にしましょうか
俺は、授業が終わって直ぐの教室にいた。
次の化学の時間に提出することになっている宿題の問題集を、チームメイト兼友人に写させているところであった。
「なあ、あの子こと…どう思う」
「あ?」
俺の突然の問いに、必死に問題集の解答を写していたチームメイト兼友人が、顔を上げる。
そして、如何にも鬱陶しそうな様子で俺を睨んだ。
「だから、あの…」
少し言いかけて、俺は悩んだ。
あの子、深海魚の君の本名が思い出せない。
確かに聞いた、という記憶は残っているはずなのだが。
彼女のことを口に出して「深海魚」と呼んでしまうことに、俺は少しの抵抗があった。
何より、失礼ではないか。
しかし、このままでは話は進まない。
俺はやむを得ず、その単語を口にした。
「し…お前らのよく言う、深海魚の子のことだ」
「ああ?
…まあ、独特な雰囲気のある子だよな。ちょっと可笑しい感じの」
「可笑しいって、お前…」
「なんだよ、お前。好きなのか」
「―っ!な、なんでそうなるんだ!」
「そうにしかならねぇだろ」
そう言ったチームメイト兼友人は、白々しそうな視線を俺へと送る。
実際、俺が話したかったのは、こういった事などではなかった。
俺は、見てしまったのだ。