お茶にしましょうか
そして、弁当袋の中から現れたものとは。
「先日見舞って下さって、さらに、謝って下さった、お礼の様なものです。受け取ってください」
そう言って、少し頬を紅く染めた彼女の掌の上にあったものとは、ピンクで可愛くラッピングを施された包みだった。
この人の頭の中身は、少し変わっているのではないか。
謝罪の、お礼に、などと言う。
べつに俺は、見返りが欲しいが為に、あの場へ謝罪に訪れたわけではない。
そもそも何か物欲しさに頭を下げに行く人なんて、少なくとも俺は聞いたことなどない。
「やっぱり、受け取ってくださいませんよね…」
先程まで元気のあったはずの彼女は、頭を垂れて如何にも落ち込んでしまった風だった。
彼女の瞳が少しばかり動き、明らかに俺と目が合っている。
周りには似たような顔たちがいるというのに、だ。
その瞳の先にあるものが、俺であった、ということを知らされた気分だった。
「お、俺に、ですか…?」
こう俺が声を発していた時、仲間たちはひどく驚いていた。
きっと俺が此の片、女子と口を聞いたことがないからだ。
「あ、そういえば、あなたのお名前とポジションを教えていただけませんか?
こうして出会えたのも、何かのご縁です。是非とも、応援してさしあげたいのです」
応援させてほしい、と懇願されるとさすがに照れてしまう。
応援したい、など人様から初めて言われた。
すると、彼女は急に慌てだした。
「って、私ったら!名乗りもせずに失礼しましたっ。私、自称「吹奏楽部」萩原、と申します」
「えっ、江波っ、ポジションはレフト…」
「江波くんは、照れ屋さんなんですね」
「っ…!」
ほぼ初対面の相手に、己の真実の部分を見透かされた様だった。
確かに自分が人の目を見て、会話することが出来ないことは、自分でも知っていることだ。
俺にとってのコンプレックス、昔からの悩みは、このあがり症だ。
自分でも情けなく思っている。
そんなことで思い悩んでいると、彼女はあの可愛らしい包みを再び、俺の前へと差し出した。
「改めて江波くん、これをどうか、受け取ってくださいますか」