お茶にしましょうか
Scene13 遅くても一歩
ある日の休み時間に、私は愛しの江波くんをお茶にお誘いしたのです。
場所は、帰り道の途中にある、近所の公園にいたしました。
さらに、それに加えて言えば、たった今は自動販売機の前にて二人、立ち尽くしているのでした。
何故か二人して動こうとしませんでしたので、私が先陣を切ろう、と思いました。
肩に掛けている鞄から財布を取り出そうとすると、江波くんの目は瞬時に私の動作を捉えたようです。
そして、江波くんは掌を見せるようにして、突き出してきました。
そのまま江波くんは、私の一歩前に出られたのです。
「何を飲みますか?」
ただその一言を言って、私が答えることを待っていらっしゃいます。
ああ、なんて紳士な方なのでしょう。
私がこの様にして、心奪われている間にも、腹を立てることもなく、静かに待ってくださっています。
このままで、しばらく江波くんの姿に見とれていたいとも思いましたが、そういうわけにもまいりません。
とりあえず、自動販売機に並ぶ、飲み物たちの陣容を眺めました。
赤いデザインのストレートティー。
白に青のドット柄でデザインされた、カルピスウォーター。
紫の葡萄がでかでかと描かれている、微炭酸飲料。
黄緑色にデザインされた、無難な緑茶。
どれも、好きなものではありました。
しかし、今の気分ではこちらです。