お茶にしましょうか
「あ、ああ…」
ぎこちなく返事をしながら、こちらからも手を差し延べ、それを受け取った。
「ありがとうございます…!」
そして、失礼します、と陽気に駆けて行った。
彼女が去った途端に、今まで静かにしていた仲間たちが突然、騒ぎ出した。
「お前、一体どういうことだよ!説明しろや、おい!!」
「ふーん、江波も、すみにおけないねぇ」
「おまっ、女子から応援させてください…って、羨まし過ぎるぜ…」
「例え、相手が深海魚だったとしてもっ!」
俺を一人、皆で囲む形で、次々に囃し立てる。
女子からいきなり意味ありげな包みを渡され、応援したい、などはきっと男である限り、俺でさえ少しは自惚れる。
だが、逆に考えてみれば、空想の世界で多く見られるこのパターンは、罠である可能性もある。
あの眉間のこぶは、怨まれて当然だ。
しかし、これが心の底からの厚意であった場合には、失礼極まりない思考となる。
彼女は、まともに目を合わすことも出来ない俺に、あんなにも柔らかい笑みを見せてくれたのだ。
ここは、感謝の気持ちで素直に受け取ろう、そう思った。
包みの中身を触った感触では、どうやら食い物であるらしい。
堅めの何かがいくつか入っている様で、クッキーかもしれない、と推測した。
「で、それ何なんだよ」
急かされ、包みを開くと、予想した通りのものが入っていた。
形が少し歪であり、焼け具合などを見たところでは、手作りの様だった。
わざわざ作ってもらったのか、と申し訳のない気持ちになった。
同時に、これを一人で食べることは恐れ多い、とも感じた。
「み、みんな…」
共に夏を過ごしてきた仲間、そしてこれからも、だ。
この応援は、俺だけへのものではない。
俺へ向けてくれた、ということはチームへの応援だ。
このクッキーは、皆で分け合うものだ。
有り難く分け合わなければならないはずだ。
「よかったら、みんなで食わないか?」
「え、いいの?」
「あの子は、お前に…」
「いや…そんなわけは無い、と思う。…よかったら、だが、み、みんなで…」
俺へ、ということは、皆もだ。
そこまで言うなら、と仲間たちは素直に受け取る。
そして、クッキーが各々へと行き渡り、各々の感謝の気持ちを感じながら、一斉に口へ運んだ。
こんな展開を一体、誰が予想していただろう。
そのクッキーは、ひどく濁った深い緑色の、ひどく苦いものだったのだ。
皆、地面にて悶え苦しんでいる。
やはり罠であった様だ。
やはり、怨まれている俺は、どうしたらいいのだろうか。
この際、許されなくともいい。
ただ、仲間たちよ、怨まないでほしい。
同じく地べたに這いつくばっていた俺の後ろに、多くの影が覆いかぶさるのが、よく見える。
嗚呼、俺はなんて罪深い奴なのだろう。
Scene 2 駆ける深海魚