お茶にしましょうか

「本当に野球を愛してらっしゃるのですね」



私が感じたことを、そのまま述べました。

しかし、江波くんは少し照れた後、こうおっしゃったのです。



「…あなたが、愛人と共に音楽を愛しているのと、全く同じことだと思います」



江波くんがそのようなことをおっしゃるのです。

今は、相棒であるリョウさんのことを想うだけで、胸が苦しくなります。

出来ることなら、思い出したくないはずなのですが、江波くんに言われて、気付いたことがありました。

幼い頃から共にしていたはずのリョウさんをたった今、生まれて初めて、長い間、一人置き去りにしてしまっているということです。

私の気まぐれな想いで、困らせているのではないかと思うと、突然に申し訳なさが涙を連れて、押し上げてまいりました。



「リョウさん…」

「また機会があれば、二人のパフォーマンス、見せてください」

「しかし、あいにくそのような場所はございませんし…」

「あるじゃないですか」

「どこにでしょう」



すると、江波くんは控え目に口角を上げたのです。
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