Contrary
「BARの存在を仄めかしたって?」
無感情な声が俺に掛けられる。
その声に振り返るとそこには壁にもたれかかり腕を組みながら、ただ真っ直ぐに俺を見つめる存在がいた。
「何か問題でもあった?」
「問題の有無だけで言うなら……ない」
ただ……と意味ありげな声を出す彼は表情だけでは何を考えているのか全くわからない。
そういえば、彼は昔から自分のことを悟らせることは無かった……とこの場に関係の無いだろう事を思う。
「その行動によって生み出される利益が見い出せないだけ」
「利益……か」
「わざわざ自分のアドレスを晒す必要も分からない。
……なにを考えている?」
僅かに溢れる殺気。
先程までは感じることがなかったそれは、明らかに俺を脅していた。
「俺はね。
それぞれがやりたい事をやればいいとは思ってる」
俺だって好き勝手やってるしねと言う彼の瞳は感情の読み取れない瞳ではなく、俺の事を鋭く射抜く。
何を考えているか分からないのは彼だけではない。
俺の周りにいる奴らは己の感情を隠すのが上手い奴ばかりだ。
彼等からすれば俺も十分、感情が読みにくいのだとか。
ただ、俺は隠しているつもりは無い。
言う必要が無いと思っているだけで。