Contrary
僕たちの教室についたその時、不意に後ろから聞こえた声。
驚いた様子もなく、いつも通りの優しくて穏やかな声は少しだけ楽しそうに弾んでいる。
見分けられる方の幼馴染みの登場だ。
「炉宮、未だに見分けられないの?
そろそろ愛想尽かされるんじゃない?」
くすくすと上品に笑う響葵。
ただでさえ似ている僕らがみわけられないように態と似せにかかっているんだから、僕たちを見分けられる方がおかしいんだよ。
と、声を大にして叫びたいところだけど響葵は怒らせたり機嫌を損ねると怖いから何も言わない。
「「響葵、おはよー!」」
「うるせぇよ。」
炉宮の方が年上なのに、何故か響葵の方が年上に見えるんだよね……。
響葵の方が物腰柔らかというか余裕があるというか……
「じゃあ俺は自分のクラス行くわ」
「「うん、またねー!」」
「じゃあね」
炉宮と分かれて僕達は教室へ入る。
クラスメイトが挨拶をしてくれて、それに返す。
いつもの事だけど、僕は史桜として、史桜は僕として挨拶を返している。
誰も気が付かない。
響葵が隣で楽しそうに笑っているけど、誰も気にしない。
見分けられる方が異常なんだと再確認させられる光景だなと他人事のように思う。
史桜の席に座って、僕の席に座った史桜と話していると妃海ちゃんが来た。
「妃海ちゃん」
「おはよう!」
普通の挨拶。
何度も言うけど僕達が入れ替わっていること以外は何ら変わりない日常。
……のはずだった。