Contrary
「なに?」
「今行ったら史桜くんは一人で乗り越えられないようになっちゃうよ」
僕を引き止めたのは彼女だった。
どの口が……どんな気持ちでその言葉をいうんだ。
何を知っているんだよ。
「あんたに何がわかるのさ!」
手を振り払って史桜を追いかける。
分かってるよ。
今行けば史桜も僕もお互いにもっと依存し合うことくらい。
それでも、僕達はそうしないと壊れてしまう。
乗り越えられない記憶に潰されて、後悔の念に塗りつぶされてきっとダメになる。
まだ、もう少し。
二人でいたい。
いつか離れて各々の道へ進まなければならない日が来ると分かっていても。
屋上は多分行かない。
空き部屋……と言っても鍵は閉まっているだろう。
開けようと思えば開けられるだろうけど、今の史桜はきっとそんなことはしない。
きっと自分でも自分の行動がわからず、どこか誰にもみられない場所で自分の行動の意味を考えているんだろう。
“あの日”もそうだった。
唯一違うのは僕が一緒にいないこと。
“あの日”は僕もふさぎこんでいたから。
史桜は僕より少し大人な考えを持っている。
だからこそ、ちょっとしたことで崩れてしまうような危うさがあるんだって響葵が言っていた。
僕はいつも一緒にいるせいかそんな風に思った事はなかった。
そんなことを考えていると、いつの間にか裏庭に来ていてベンチの上に丸まっている人影を見つけた。
「史桜」
「鈴桜……」
「なんて顔してるの」
情けない顔。
泣くのを我慢しているような感じ。
だが、瞬きを一つすると…………
「やっぱり、あの子は怖い」