Contrary



「ねぇ、史桜」

「何」

「もう、忘れていいのよ?」

「……何度も忘れようとした」



忘れようとすればする程どうしても頭をよぎる。

馬鹿みたいに笑ったこと、馬鹿なことしているのをただ見ていて巻き添えをくらったこと。

荒んでいた僕達を優しく支えてくれたこと、ここにいていいと教えてくれたこと。

言い合いをしたことも、しばらく口を聞かなかったことも……

“あの日”のことも全部。

まるで昨日の事のように思い出せる。



「妃海みたいに正論並べるつもりは無いから、あなた達の好きにすればいいだろうけど……」

「………………」

「人生は一度きりよ。
後悔しないように進まないと」

「それ、正論だろ」

「違うわ。
これは綺麗事よ」

「変わらねぇよ」



クスクスと笑う粃を見てフッと笑う。

こんな感じ久しぶりで、片割れが……鈴桜がいたらもっと楽しいだろうなと思った。

この時間がずっと続けばいいのに。
そうすれば余計なことを考えなくてすむ。



「それにしても、一人でいるなんて珍しいわね」

「鈴桜が風邪ひいて熱出したから」

「なるほど……
あんた達が二人揃ってたら時間差で史桜も熱を出すわけね」

「そういうこと」


< 54 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop