Contrary
「ねぇ、史桜」
「何」
「もう、忘れていいのよ?」
「……何度も忘れようとした」
忘れようとすればする程どうしても頭をよぎる。
馬鹿みたいに笑ったこと、馬鹿なことしているのをただ見ていて巻き添えをくらったこと。
荒んでいた僕達を優しく支えてくれたこと、ここにいていいと教えてくれたこと。
言い合いをしたことも、しばらく口を聞かなかったことも……
“あの日”のことも全部。
まるで昨日の事のように思い出せる。
「妃海みたいに正論並べるつもりは無いから、あなた達の好きにすればいいだろうけど……」
「………………」
「人生は一度きりよ。
後悔しないように進まないと」
「それ、正論だろ」
「違うわ。
これは綺麗事よ」
「変わらねぇよ」
クスクスと笑う粃を見てフッと笑う。
こんな感じ久しぶりで、片割れが……鈴桜がいたらもっと楽しいだろうなと思った。
この時間がずっと続けばいいのに。
そうすれば余計なことを考えなくてすむ。
「それにしても、一人でいるなんて珍しいわね」
「鈴桜が風邪ひいて熱出したから」
「なるほど……
あんた達が二人揃ってたら時間差で史桜も熱を出すわけね」
「そういうこと」