Contrary
「大切なものを失くしたら辛いのは誰もが一緒ですが、それでも前に進む力があるのが人というものですよ」
「マスターが言うと説得力があるわね」
紫義がくすりと笑う。
それをきっかけに、空気が和む。
この時点でわかっているのは彼らが白鷺であること、BARのマスターと親しいことくらいだろうか。
彼らの中での関係性はよく分からない。
誰が総長なのかだとか、他の族をどう思っているのかだとかも全て。
“あの子達”が誰のことを指しているのかも謎である。
「マスター」
「はい?」
「そろそろ帰る」
侑蘭がそう言うと、自然に他のメンバーが立ち上がる。
マスターもいつもの光景なのかただ微笑んでいた。
カクテルはほとんど口をつけられていない。
しかし、それぞれにお金をカウンターに置いた。
「また来る」
「お待ちしています。
あ、ひとつ頼まれてくれますか?」
「構わないわよー!」
マスターの頼みは他愛のないものであった為、二つ返事で了承する彼ら。
そして、流れるようにBARから出ていく5人の姿をマスターは寂しげな瞳で見つめていた。
彼らはBARを出て、扉にかかっている看板を裏返した。