ヴァンパイアと口づけを
私の声に気づいた母はうっとりとした瞳でこちらを見つめ、こう言った。
「・・・夕月・・・おかえり。・・・あっ・・・はぁっ・・・ご飯・・・用意してあるから・・・んっ・・・電子レンジで・・・温めて・・・食べてね・・・?ああっ・・・んっ」
私は聞いたことのない母の声と、部屋中に充満する甘酸っぱい香りに耐えきれず外に飛び出したことを覚えている。
外に出た私は必死に走って走って走って。
そして今働いている小さな本屋を見つけた。
気持ち悪さと暑さで悲鳴をあげていた私の体を癒やしてくれたのは、この本屋のオーナーである古見さん。
「どうしたのお嬢ちゃん。あ、オレンジジュースあるよ。飲みなさい」
私はその落ち着いた低音の声に安心し、もらったオレンジジュースを一気飲みしたんだ。