センチメンタル
あの日、君と私とベンチの時間


 車の揺れが気持ちよくて、眠ってしまった。


 あーあ、と呟く声は小さかったはずだけど、同時に車が止まったことで私は目を覚ます。

「んー・・・?」

 恥かしげもなく大きな欠伸をしながら隣を見ると、彼が起こしちゃったな、と眉毛を下げてみせた。

「ごめん、煩かった?」

「ううん、大丈夫。私こそ寝ちゃってごめんね」

 私はよいしょ、と体を起こしてちゃんと座りなおしてから運転席で困った顔をしている彼に笑いかける。

「つい風が揺れと気持ちよくて寝ちゃったねー、どうして止まったの?もう着いた?」

「いや、このカーナビ結構古くてさ、道が変わっちゃってるみたいで迷っちゃったんだ。ホラ」

 そう言って彼はお父さんから借りて運転している古いステーションワゴンのカーナビを指差した。薄くなった色が混ざり合った画面の中で、車のアイコンは宙に浮いているように止まっていた。本来ならば走っている地面が現されているはずの場所は真っ白な空間になっている。

「・・・あらま、これって空飛んでるの?」

「うん。まだここには道がないことになってるんだろうな。どっちかってーと俺達、空飛んでるというよりは建物の中を通過中になってる」

「おんや~?」

「ほんとそれだよ~。とにかく、ここはどこだって話だ。俺達はここからどうやって行けばいいんだ~」

 彼はヤレヤレと言いながら運転席でスマホを取り出し、道路の検索を始めた。私はまた欠伸をしながらカーナビの画面をじっと見る。本当だ。元々ここにあったらしい何かの建物に車ごと突っ込んでいるようになっている。何てこと。


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