【短編】TIME RAIN
遠ざかる客の足音を耳で追い、私は素早く行動に移った。




あの二人が刑事とは到底思えない。


警察手帳も見せない刑事なんているのだろうか。




欺瞞の匂いがする。








納戸に隠した荷物を背負い、裏口から外へ飛び出す。


表側の通りを避け、軒の列なる小道に向かう。


2年の間、私を守ってくれた家を振り返ることもなく私は歩き出した。


あの人が無事ならそれでいい。


まさか…私を嵌めるためだけに、現地人を殺すだろうか。


慌てて家を出てしまったせいか、つっかけサンダルのままだった。


どこかで、スニーカーでも買わなくちゃ…。


神社の境内を抜け、隣接する公園に足を踏み入れた。




しまった…。







前方に先程の澤田と名乗った男が一人。


案の定…私の後ろに若い男の姿あり。


まんまと嵌められたのは…私の方ね。




公園の砂利道をサンダルで走れるはずもなく、私は意識を前方の男に向けた。


『おやおや、息をきらせてどちらへお出かけですかな?』


そのニヤニヤ笑いに悪寒が走る。


爬虫類のような皮膚感を持った男だった。


生理的に苦手なタイプだ。


なんだか、地上に長く居すぎたようで、思考の一部も現地の女性のように働いた。




『夕飯のお買い物でも行こうかと…』


ニヤニヤ笑いはそのままで男は意味ありげに眉をひそめた。


『旅行鞄持ってですかな』




『さぁ、荷物はともかく、サンダルで出かけるったら買い物しかないでしょ』


澤田は表情ひとつ変えずに私を見据える。




『まぁ、いいでしょう。逃避行もここで終わりですから…おい』


後ろの若い男から、殺気が膨れ上がった。


どうやら、ここで殺るしかないようだ。




遠くの遊び場から、子供たちの笑い声が風に乗って流れてきた。










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