ノンストップラブ
「マスター?」

「悪いけど、相席いいかな?」

「そりゃ、全然構いません。ちょっと寄せるから待って。」

私は広げたノートやらカップやらスマホを手早く窓際へ集めた。

「どうぞ。」

「ありがとう、誠ちゃん。」

マスターの後ろに立っていた男性が静かに座った。

私には「悪いね。」と言い、水割りをオーダーしていた。

私はカップの中身を飲み干した。

程なくしてマスターがトレイにゴツい水割りのグラスとコースターを載せて戻った。

「ごゆっくりどうぞ。」

「あ、マスター、私お代わりをお願いします。」

私はカプチーノを追加した。

「かしこまりました。」

ふと見ると、水割りを一口飲んだ男性はため息をついた。

そのため息に一体どんな意味があるのだろうかとちらと思い

私はまたノートにペンを走らせた。

「たかがフィアンセごときに私がうろたえるものですか。」

「あとで泣くのは君の自由だ。」

平行線のままの二人の会話はこれで終わりにしよう。

「お待たせしました。」

マスターがカップを運んできた。

私は手元に引き寄せて一口飲んだ。

向かいに相席した男性に見られているのはわかっていた。

カップをソーサーに戻して窓の外を見ても

上から流れる雨水でガラス越しにはぼんやりとした道路の明りしかなく

雨降る静かな夜ぐらいの表現が合っていた。

実際には土砂降りだが。
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