復讐
「出回った理由としては・・確か大麻や覚醒剤よりも安く手に入ったからだったか?」
「それだけじゃない。こいつの問題は服用回数によって効果が変わる事だ。
1本吸うだけでもかなりの快感と酩酊状態を得られるらしいが、
どれだけの常習者でも、
間隔を空けずに2本以上吸うと約24時間以内の記憶が一気にぶっ飛ぶらしい。
個人差はあるみたいだがな。」
「ほお、なるほど。仕事や家庭に対してストレスを抱えるサラリーマンが、
その日1日の嫌な事を忘れる為に服用していたって事か。」
「そんな所だろうな。
中間管理職だとか役職がついている人間ほど所持していた気がするよ。」
「それで、この“タバコ”は絶滅したはずだったのに今の時代に見つかったんだよ、という話になるのか?」
「式場で割腹自殺した男の部屋からはこれが何十本も出てきた。
だけど売買した形跡はないし、この界隈では少なくとも10年以上見つかっていないから、
恐らくこの男は自分で生成して自分で使用していたんだろうな。
驚いたよ。
絶滅したはずの“タバコ”の成分を当時まだガキだったはずの若者が知っているなんてな。」
「もしこれがまた出回ったら、あの頃のようにまずい事態になるな。」
「ああ。一般人はともかく、どんな薬物中毒者もこいつの威力には、たまげるだろうからな。」
「売買していないっていう確かな証拠はないんだろ?」
「そこだよ心配なのが。
今、俺とは別のチームがそこら辺を洗っているところだ。」
「万が一うちの所轄内でこの“タバコ”を所持している奴を見つけたらすぐにお前にも連絡するよ。」
「悪いなカザマ。
実は、今日はそれを頼みに来たっていうのもあるんだよ。」
「理由も無いのにお前が訪ねて来るなんてあり得ないって思っていたよ。心得た。」
「お前には敵わないな。
じゃあそろそろ行くわ。」
ヤマモトはコーヒーが入っていた紙コップをゴミ箱に捨てるとカザマに手を上げて、休憩室を出た。