青い空の下、僕たちは今も
「せーんパイ」
「…何」
「どこ行くんですか?」
「俺プレゼンツ。
だから秘密」
「わ、ケチっ」
例えばの話
「ケチでいいよ」
先パイがこんなところにつれてこなかったら
私はこんな“例えば”なんて
考えなくてすんだのかもしれない、なんて
「…どこ、ですか。
ここ」
「東京」
「わかってますそんなこと!
駅で見たからっ!」
電車に揺られて一時間半
こんな簡単に連れてこられるとは思わなかった
「じゃなくてっ!
この大きな建て物!!
なんですか、一体!?」
「あぁ、俺がこれから通う予定の大学」
言葉につまった
あなたは今から
私に何を
「中の下見、手伝ってよ」
「え、そんなのいいの?」
「一応呼ばれてるから
いいんじゃね?」
「呼ばれてるって、誰に…」
腕を引きながら
それでも私に無理のないよう歩いてくれる
周りを見渡せば
大人っぽい人ばかり
自分が、浮いて感じる
見て回った所は本当に綺麗で
私には場違いな気がして
楽しそうに笑うあなたには
とても合っているんだろうと思った
「あ、やべ。
時間…」
学食を食べて
気づけば2時過ぎ
勢いよく立ち上がった先パイがあたしを気遣う
「ごめん、すっかり忘れてた
急ごう」
それでも、あたしに無理のない程度に歩いてくれる
あなたが走れば
遅れることもないだろうに
「遅れてすみません。
今日は呼んでいただき、ありがとうございます」
「おー、待ってたよ。
早速混ざってくれ」
「はい。
こちら、俺を拾ってくれた監督
待ってて
ちょっと走ってくるから」
「彼女は?」
「あー、えーと…」
出てきたのは、お姉ちゃんの名前
「知ってるよ、彼女もいい選手だからね
彼女がそうなのかい?
もし良かったら、うちに来ないか?」
「いえ、私は妹です
それにお姉ちゃんも、もう決まってるので」
そう言いながら、近くにある
有名国立大の名前を出す
「そうかい
それは惜しいことをしたなぁ
君はいくつだ?君も走るのか?」
「高一です。
走るのは…足を痛めてしまって」
私と監督が話している間に
先輩は大学生の方に混ざっていってしまった
「そーかい
残念だったね」
何度もかけられ続けた言葉が
胸に刺さる
残念なんかじゃない
少なくとも、私にとっては
でも、あなたにとっては…
「いえ、おかげで
彼の走りをよく見ることが出来ました。」
「…そうだねぇ
彼ほど綺麗な走りをする選手は
中々いないから」
「本当に…
お手本みたい。」
私が吐き捨てた言葉に、監督が不思議そうな顔をする
「…綺麗を、求めすぎてるんです、先輩は。
お手本みたい
それは凄いと思う
でも、これからもそれを目指し続けたら
きっと、成長しない」
監督は、私の言葉に驚きながら
ゆっくりと頷いた
私の言葉をしっかりと受け止めてくれるこの人は
きっと、私の言えなかったことを言ってくれる
「彼を見つけてくれて、本当にありがとうございます。
よろしく、お願いします」
変わることを恐れて言えなかった、私の
「あぁ、わかったよ」
それ以上、監督は何も言わなかった
それに甘えて、私は
もう生で見ることのないだろう彼の走りを
記憶に焼き付けた